食事がつくる発達障害③の1 腸と脳

今泉栄養療法クリニックで開催した11月16日のセミナー、テーマは「腸と脳」

腸内環境の悪化は万病の元。「万病」の中には当然脳の病気、そして発達障害も含まれる、とお聞きなったら、驚きますか?

このブログを読んでい下さっている方は、多分、そう驚かないかもしれませんが、実は発達障害の子供も大人も大多数の方は腸の問題を抱えているんです。

発達障害の人に多い腸の症状の特徴

・慢性の便秘・下痢または便秘下痢を交互に繰り返す
・腹痛
・お腹を下すことがよくある
・ストレスの影響を受けやすい

これら腸の症状は、発達障害の方特有の、感覚過敏、認知のゆがみ、感情コントロールが苦手などの特性に由来することが考えられます。

脳腸相関と言う概念があります。脳と腸が神経伝達物質やホルモンなどを介して密接につながってお互い影響を与え合うという身体のしくみです。

例えば、幸せホルモンの一つセロトニンは腸で作られ、副交感神経を刺激して腸の動きを活発にし、夜間には眠りのホルモン(メラトニン)の材料になります。快楽を感じるやる気のホルモン(ドーパミン)、ストレスホルモン(ノルアドレナリン)は腸で分泌され、交感神経を刺激し、脳へ信号を送って感情に影響を与えます。そして、その「感情」がまた自律神経を介して、腸の動きや機能に影響を与えます。

つまり、脳の機能障害とされる発達障害は腸の影響も受けているってこと。腸の状態が良いかどうか、がすごく重要で、それは、いいうんちをするかどうか、でおおむねわかります。

あなたのうんちはいいうんちですか?

では、いいうんちを毎日出すためには、どうしたら良いのでしょうか?

答えは、次に・・・

食事がつくる発達障害② 低血糖

去る10月19日に開催した当院のセミナーは、発達障害第2弾 砂糖と血糖の話です。

タイトルは発達障害ですが、大人にも当てはまる血糖と脳機能、情緒への影響をお話しました。子供は、もといヒトはなぜ砂糖(甘いもの)を欲するのか。なぜ、カフェインを欲するのか・・・

セミナーでは低血糖の定義と病態をお話しましたが、その詳細は、2022年1月26日「「低血糖症」って「糖尿病」の逆ではないんです」というタイトルの投稿をご覧ください。

今回のセミナーでは、低血糖に伴うホルモンの作動が、精神状態(子供ではかんしゃくや夜泣き)や消化機能に影響し、発達障害様の症状の一因になり得るという観点でお話しましたが、それは、大人においても脳の機能、情緒の乱れという形で現れます。

そしてその対策については、2022年2月6日の投稿「低血糖症の対策「補食」」にも書いていますのでご参考にして下さい。単なる「おやつ」と「補食」のちがいを理解すること,

自分にとって最適な補食の量と食材、タイミングが重要です。以下、セミナーのポイントをご紹介します。

子供の機嫌が悪いときは・・・

◆まず低血糖を疑おう(実は、大人が疲れたとき、イライラするときも同じ。)
◆まずは補食させ、自分も補食してから子供と向き合う                      「オー低血糖来たな~」という目で見てあげると、落ち着いて対処できます。
◆親子で補食してから家事をする

子供を不調にするおやつ

◆チョコレート、ケーキ、ポテトチップス、キャンディー、アイスクリームなど…
  ⇒このようなおやつを毎日食べている子どもは、
   アトピーや喘息、発達障害などに悩むことが多いというデータも…

子供を元気にするおやつ

◆ ゆで卵、野菜チップス、ナッツ類、豆乳と果物のスムージー、煮干し、ポタージュスープなど…
◆ 糖質系なら
  おにぎり、さつまいも、じゃがいも、とうもろこしなど…
  ⇒食物繊維やビタミンも補うことができる!
 おやつ(補食)は成長に必要な栄養素を分食して摂るのが目的であり                甘いものを食べて喜ばせることが目的ではない!!

どうしてもチョコレートやケーキを食べたいとき
  ⇒先にゆで卵やチーズ、ちくわなどのタンパク質を摂取
   糖質の吸収が穏やかに&食べ過ぎ防止に!

外出時の対策

◆ 水に蜂蜜を溶かしたドリンク(ビタミンCの粉末を入れておくとビタミンCの補給にも)
◆ 甘栗や干し芋、ミニおにぎりを小分けにして携帯しておく
◆ アミノ酸サプリ
◆ MCTオイル

自分の栄養管理とリラックスで余裕をもって家族に接するための「自分ファースト」
それは「自分勝手」とは違います!

お子様のみならず、ご自身や家族、職場の同僚のイライラ対策にぜひ・・・
 食事に出し粉、MCTオイルをふんだんに使ってみましょう!
 低血糖対策(補食を携帯・摂取する)を実行してみましょう!

食事がつくる発達障害①の5 蛋白、ビタミン、ミネラルを摂るための食事の工夫

現代の食環境では、発達障害のような症状を引き起こす栄養不足が起こりやすくなっています。欠乏しがちな栄養素、タンパク質、ビタミン、ミネラルが納期のの維持に必要不可欠だからです。

その理由は、新型栄養失調。詳しくは2021年6月14日から25日に6回シリーズで書いた当ブログをご参考に。

足りなくなりがちな栄養素を、どうしたらしっかり摂ることができるのか。

最も基本的で大切な事、それは、ゆっくりと食べ物の味と香りを楽しみながら食事をすること。よく噛むこと。

次に、当然のことながら、栄養素を多く含む食材を摂ること。それを正しく消化、吸収する事。実は、食材を摂ることより、消化吸収を正しく行うことの方が難しんです。

そこで、セミナーでは食事の工夫をご紹介しました。

食事がつくる発達障害①の4 成長期と発達障害

子どもの成長曲線
小児のALP基準値

①図のように子供の成長には生後3歳くらいまでの第一次成長期、10歳から18歳くらいの第二次成長期がありますね。ちょうどその時期は、イヤイヤ期、思春期という、いわゆる反抗期と一致しています。これって偶然でしょうか?

②図では小児のALP(アルカリフォスファターゼ)という酵素の基準値のグラフを示しました。このALP、高い山、成長曲線の山とほぼ一致していますね。そして成人の基準値に比べ、子供の基準値が極端に高いことがわかります。

それもそのはず、ALPのお仕事は

エネルギーを作る、骨を作る、神経伝達物質を作るなどの、心身の成長にとって必要不可欠で重要な機能を担う酵素なんです。

ALPの構造

この酵素の主材料はもちろんタンパク質ですが、亜鉛とマグネシウムがないと作れない酵素。

ALPをたくさん作らなければならない成長期には、タンパク質に加え亜鉛、マグネシウムなどのミネラル類もたっくさん消費するってことですね。

そして、それらの栄養素の補充が十分でないと不足しがちになり、前々回のブログでご紹介した神経伝達物質の代謝にトラブルを生じやすい、つまり精神が不安定になりやすい、という事に繋がります。

成長期に必要な栄養素が脳の機能にも大きく影響するってことです。イヤイヤ期に発達障害が顕著になってきたり、思春期にうつ病が起こりやすくなるのもうなづけます。

ってことは、です。それらの栄養素を過不足なく補充することで、発達障害やうつ病の発症を減らすことができそうって、思いませんか?

食事がつくる発達障害①の3  代謝障害と遺伝子トラブル

「代謝」という言葉はよく耳にすると思いますが、正しい意味は?と改めて聞かれると、ん?と思う方多いのではないでしょうか?

「代謝」には、酵素が必須 酵素にはビタミン・ミネラルが必須

生物学的には、自分自身が生きて行くことと、子孫を残すことが生物の最も大事な機能ですが、「代謝」とは、「生体が生命の維持と成長、生殖を可能にするために行っている生化学反応」です。つまりAという物質をB、C、Dと変化させる事。

それには必ず酵素が必要で、多くの酵素はタンパク質とミネラルでできています。酵素が活性化して働けるようになるため、補酵素のビタミンが必要です。

そして、栄養障害とは、必要な栄養素が欠乏することによる代謝のトラブルの事。

つまり、「栄養素」は、体が必要とする「代謝」を正しく行うための「材料」なんですね。

だから、栄養が不足すると必要な代謝のあちこちにトラブルを引き起こし、様々な病気が起こりやすくなるんです。

栄養不足以外に代謝の障害の原因になる要因は何でしょう?大きく分けて、

 ◎遺伝的要因:遺伝子トラブル と 

 ◎後天的要因:環境、毒物、精神ストレス、炎症など  があります。

そもそも遺伝子は、代謝を担う酵素の設計図、料理で言うと「レシピ」です。

遺比較的多くみられる遺伝子トラブルの事を遺伝子多型と言いますが、その中でも

   遺伝子配列の1カ所だけが正常と異なるものをSNPs(スニップス)といいます

   遺伝子多型があると、酵素の働きは正常の3~7割に落ちます。

そしてMTHFRという葉酸代謝酵素の遺伝子のSNPsが発達障害の一因となることがわかっています

メチレーション:重要な働きをする代謝の歯車

やっぱり、発達障害って、遺伝だからどうしようもないじゃないか、と思うかもしれませんが、全くそんなことはありません。だって、MTHFR遺伝子のSNIPsの保有率は、日本人では70%もあるんですから。

それを説明するのが「エピジェネティクス」という概念です。

•遺伝子が発現するにはそれぞれにスイッチがあり、遺伝子そのものは変わらなくても、遺伝子が働くスイッチの ON、OFFの機能があり、それによって影響の現れ方が変わる、という考え方です。

遺伝子は料理で言うと「レシピ」ですから、レシピが少々違っても、調味料を少し工夫したり、他の材料で代用したり、食卓のインテリアを変えたりすると、それはそれで美味しい料理になる、って事。逆に、レシピは完璧でも材料が不足したり、劣悪な環境で食べると料理はおいしくありません。

これを発達障害に当てはめると、生まれつきの問題があっても、日常生活でできる適切な対策をしていれば、発達障害で見られる多くの症状の改善は可能、遺伝子に異常がなくても栄養や睡眠が不足していたり、生活環境が悪いといわゆる発達障害もどきになるよ、って事ですね。

代謝障害と遺伝子トラブルのお話でした。

食事がつくる発達障害①の2 神経伝達物質と脳機能

発達障害は一般的には脳の機能の障害ととらえられています。

現に、前回ご紹介した成田奈緒子先生の著書にも、脳機能の発達の順序が違うと、発達障害もどきの症状が起こると記されていました。

では、脳の機能が正常とは、いったいどんな状態でしょう?

正常な脳機能

脳は、細長い神経細胞がぎっしり詰まってネットワークを作り、情報を伝達している場所です。情報の伝達は、上流の神経と下流の神経のつなぎ目(シナプス)において、神経伝達物質を受け渡しする事で行われています。

必要な情報が、必要な時に適切に伝達される、つまり脳の機能が正常に作動するには、神経伝達物質がバランスよく作られることが重要で、

神経伝達物質を作るには、必要な栄養素が充足していなければならないのです。

逆に、脳の機能が低下しているとは?

脳機能の低下

神経伝達物質の・材料が不足している状態と・材料を作るために必要な酵素のDNAにトラブルがある状態、です。

さて、どちらの影響が大きいでしょう?

もちろん栄養不足にも程度があるし、遺伝子トラブルにも程度がありますから、どちらとも言えませんが、ただ、言えることは、変えることができない遺伝子トラブルがあっても、環境や食事で症状を変えることができる、という事です。

実は脳は、栄養の影響を最も大きく受ける臓器なんです!

脳内には、抑制系、調節系、興奮系の3つの系列の伝達物質があります。

それぞれの系列のスタートとなるのはアミノ酸(タンパク質が消化されたもの)で、酵素が働いて順々に代謝され、目的の物質を作っているわけです。酵素の主原料もタンパク質ですが、その化学構造の中身はミネラルを含むことが多く、また、酵素が働くためには補酵素であるビタミンも不可欠です。

例えば、調節系の神経伝達物質、別名幸せホルモンと言われている「セロトニン」の代謝を見てみましょう。

調節系伝達物質の代謝

セロトニンが不足すると、不安やこだわりが強い イライラしやすい、怖がり、パニック睡眠が上手く摂れない、などうつのような症状が現れます。実際、最もポピュラーな抗うつ薬の一つはセロトニンの量を増やすように設計されています。

右図のようにセロトニンを作るにはまずスタートとなるトリプトファンというアミノ酸に、鉄、リチウム、マグネシウムなどのミネラル、葉酸、ナイアシン、ビタミンB6というビタミンB群などが不可欠です。何かが欠けると、この代謝の流れがスムーズにいかず、必要なセロトニンを作れず、セロトニンから代謝されてできるはずの、別名眠りのホルモン「メラトニン」も作られなくなるのです。

神経伝達物質のアンバランス

神経伝達物質のアンバランスは、右のような症状を起こしますが、これらの症状が発達障害で見られる精神症状と一致するところが大きいので、

というわけで、一般的には発達障害は脳の障害ととらえられています。

食事がつくる発達障害①の1 「生活リズム」 

去る9月21日、毎月恒例の「ココロとからだセミナー」を開催しました。

テーマは「食事がつくる発達障害」第1話 タンパクとビタミン・ミネラルのお話、だったのですが、栄養の前に知っておきたいことがありました。

それは、最近読んだ、文教大学教授 成田奈緒子先生の「『発達障害』と間違われる子供たち」成田先生は小児科医であり、ずい分以前より「早寝 早起き 朝ごはん」という非常に語呂の良いスローガンを掲げて子供の良好な精神発達を目指す、子供の脳科学の専門家です。

この本には、子供の脳の発達には順序があって、正しい順番に発達させなければならないと書かれています。

体の脳(土台)がしっかりしていると安定
体の脳が育っていないとバランスを崩しやすい

①からだの脳:呼吸・体温調節など、生きて行くために不可欠な脳

②おりこうさん脳:言語・計算・スポーツ等に必要な脳

③心の脳:想像力を働かせる、判断する、など人らしい脳力をつかさどる脳

これがこの順番に育たなければ、何かでバランスを崩すと「発達障害もどき」になる、と言うのです。

そして、からだの脳は、「寝る」「起きる」「食べる」など基本的な生活リズムを身につけることで育つのだそう。そう、「早寝 早起き 朝ごはん」です。

子育ての目標は、立派な原始人を作ること!!!と断言しています。

そして、発達障害かも・・・と言われたら、あるいは思ったら、すべき事

病院に行く前に、生活リズムが整っているかチェック

  ちゃんと食べているか、ちゃんと寝ているか

まずは朝早く起きる➡子供の興味を引くようなもので起こす

勉強を頑張らせ過ぎない(睡眠時間を削らない)

それを実行しても、なお改善しなければ初めて、病院へ・・・と書かれていました。

「発達障害もどき」とは、発達障害が、子供の行動のチェックリストなどで比較的安易に診断され、投薬されたりしてしまうことがある現状において、まず生活リズムが大事と訴える成田先生の苦肉の「造語」なのです。

これ、食事内容以前の最も大切な事ですね。それを無視して食事の話をするわけにはいかん、と思い、セミナーの初めの時間を結構割いて、成田先生の本の内容をご紹介しました。

そしてさらに、私は「ちゃんと食べる」に、「何をどのように食べる?」を加えると、「発達障害もどき」がもっと減るはず!と思っているのです。

本題は、次回から・・・・

亜鉛④ 現代人はなぜ亜鉛が欠乏しやすいのか?

まず食材の栄養価の問題。現代は、農薬や化学肥料、環境汚染の影響で作物自体の栄養価が下がっています。「新型栄養失調」の回で述べましたが、加工食品やカット野菜などは加工の段階で栄養素が失われています。

次に、吸収の問題。日本人には胃酸欠乏の人が多いと言われています。ましてや、近年はちょっと胃の具合が悪いと、胃酸抑制薬が安易に処方され、延々と飲み続けている例がよく見られます。摂取したミネラルの吸収には、胃酸でイオン化されるという過程が不可欠ですから、胃酸が少ないと摂取したのに吸収されないという事態も起こり得るんです。また、食品添加物のリン酸塩は、それ自体に毒性はありませんが、ミネラルをくっつけて便に排泄してしまいます。もちろん腸内環境が悪いと吸収しにくくなります。

そして、亜鉛消費量の増大問題。せっかく吸収し取り込んだ亜鉛も、食品添加物、環境汚染物質や薬剤などの「解毒」に使われ、ストレス、炎症なども亜鉛を浪費する原因になります。

と、このように現代社会に生きる私たちはよほど気をつけて亜鉛を摂取していても、亜鉛欠乏症になりやすいようにできているのです。

では、どうしたら良いのでしょう?

上記の逆、つまり、

・できる限り無農薬の作物を摂取し、極力加工食品を使用せずに食事は手作りしましょう。

・無駄な胃酸抑制薬を漫然と内服するのは厳禁。食事の際、胃酸の代わりにpHを下げてくれるお酢やかんきつ類(レモン、ゆずなど)を一緒に摂りましょう。

・歯周炎や上咽頭炎、副鼻腔炎等、慢性炎症があれば治療しておきましう。

・腸内環境を整えましょう。

・心穏やかにストレスのない生活を送りましょう。

いかかですか?なかなか難しいですよね。でも、知っていると知らないでは、全く違うと思います。今日から、心がけてみませんか?

亜鉛③ 多く必要な時と部位は?

亜鉛は、数えきれないほど多くの働きがありますが、亜鉛が多く必要な身体の状態や部位を知る上で、まずは「細胞分裂」が一つの重要なキーワードになります。遺伝子DNAの合成、複製に不可欠な栄養素だからです。

□細胞分裂が盛んな時(成長期、妊娠、授乳、けがの治療時、病気の回復時、炎症時)

□細胞分裂が盛んな場所(毛髪、味蕾、皮膚、消化管、生殖器)

成長期、妊娠時、手術やケガや病気の時:新たな細胞を作り出すため、または組織の修復のため細胞分裂が盛ん ➡亜鉛の要求度が上がる つまり相対的に亜鉛が欠乏しやすいはずです。

一方、亜鉛は、神経伝達物質という、脳の働きを決める重要な物質を作る際に必要なため、脳にも多いのですが、欠乏すると攻撃性増加、認知症、うつ病の原因になることもあります。

つまりつまり、亜鉛が多く必要な時期、成長期に反抗的になったり、妊婦さんがうつになったりイライラしやすくなるのは、亜鉛欠乏の影響があるんですね。

その他、膵臓ではインスリンを安定化する重要な役割を担い、肝臓では解毒の仕事、さらには免疫細胞を活性化する役割もあります。亜鉛欠乏は、糖尿病、アレルギーなどのリスクも高めるという事です。

診断は一般的には血液検査です。しかし、体内の全亜鉛のたった2%しか血清中に存在しないうえ、日内変動があり、夕方の血清亜鉛値は朝の約8割。それを知った上で検査データを解釈する必要があります。通常血清亜鉛値が基準範囲内(80~120μg/dl)であっても、組織内亜鉛は欠乏していたり、酸化ストレスで起こる溶血(赤血球が壊れること)によって、亜鉛濃度の濃い赤血球から血清中に亜鉛が溶出していたりすることがあります。一方組織内亜鉛が多いのに血清亜鉛値が少なく出ることは比較的まれです。

こんなに大事な亜鉛がなぜ欠乏しやすいのか。次の課題です。

亜鉛② 金属としての亜鉛の位置

生体に有用な金属はミネラルといい、有害な金属は有害(重)金属といいます。下図は、みなさん化学で習ったことのある金属の周期表です。ここからは、科学が嫌いな方は太字だけ読んでくださいね。亜鉛=Zn(30)、カドミウム=Cd(48)、水銀=Hg(80)、銅=Cu(29)、鉄=Fe(26)はおさえてください。

全ての金属元素は、陽子を中心として周囲に電子が回っているのですが、電子は決まった軌道を回っていて金属ごとに電子の数、軌道の数が決まっています。記号の上の小さな数字が電子の数、最上段の元素は軌道が一つで、下の段に行くほど一つずつ軌道が増えます。化学的には最外殻(一番外側の軌道)の電子の数が他の元素とのくっつきやすさを決めます。

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亜鉛は周期表30番目の金属で、右図のごとく亜鉛の下段にはカドミウム(48)、水銀(80)があります。縦の列は同族元素といって、いちばん外側の軌道の電子の数が同じなので、化学的に同じ元素にくっつきやすい性質があります。つまり、亜鉛が組み込まれるべき酵素などの物質の亜鉛の席にカドミウムや水銀が座りやすいってこと。酵素は身体のすべての反応を決める重要なタンパク質です。カドミウムはイタイイタイ病、水銀は水俣病という有名な公害病の原因ですが、CdやHgが有害なのは、亜鉛が座るべき酵素のあちこちの場所に座って、出来損ないの酵素を作ってしまい、正しい働きができなくなることで、必要な体の機能を動かせなくなるからなんです。

さらに亜鉛は左隣の銅(29)と兄弟元素で、吸収経路を共有しているので、亜鉛欠乏だと銅過剰に、亜鉛過剰だと銅欠乏になりやすいという関係にあります。銅は赤血球を作ったり、脳内ホルモンをつくる際に必要ですが、亜鉛は高容量のサプリでも飲まない限り過剰にはなりにくく、銅はむしろ過剰になりやすい傾向があります。亜鉛欠乏かつ銅過剰になることにより炎症体質になったり興奮系の脳内ホルモンのバランスを崩してうつ病になりやすくなるんです。

そして4個左の鉄(26)とも腸における吸収経路を共有しているため、鉄と亜鉛が腸内で共存するとお互いの吸収を妨げる関係です。

亜鉛が多く必要な時や場所は?

□細胞分裂が盛んな時(成長期、妊娠、授乳)

□細胞分裂が盛んな場所(毛髪、味蕾、皮膚、消化管、

            けがの治療時、病気の回復時)

成長期=身長が伸びる=骨・筋肉が伸びる=細胞分裂が盛ん ➡栄養の要求度が上がる つまり亜鉛が欠乏しやすい

その他、亜鉛欠乏は・・・

不妊、薄毛、味覚障害、攻撃性増加、糖尿病、解毒能低下、認知症、うつ病、アレルギー、皮膚炎、床ずれなどのリスクも高めます。

つまりつまり、亜鉛が多く必要な時期、成長期に反抗的になったり、妊婦さんがうつになったりイライラしやすくなるのは、亜鉛欠乏、ひいては銅亜鉛バランスの影響もあるんですね。

診断は主に血液検査ですが、体内のたった2%が血清に存在する亜鉛。しかも日内変動があり、夕方の血清亜鉛値は朝の約8割。それを知った上で検査データを解釈する必要があります。通常血清亜鉛値が基準範囲内(80~120μg/dl)であっても、組織内亜鉛は欠乏していたり、酸化ストレスにより溶血(赤血球が壊れること)によって血清より亜鉛濃度の濃い赤血球から亜鉛が溶出していたりすることがありますが、組織内亜鉛が多いのに血清亜鉛値が少なく出ることはあまりないと考えられています。

化学の退屈な話で分かりにくかったかと思いますが、こんなに大事な亜鉛がなぜ欠乏しやすいのか、次回からは、そこを掘り起こします。