骨粗しょう症の薬に要注意

女性ホルモンのエストロゲンが骨の代謝に深く関わっているため、特に女性は更年期以後急激に骨粗しょう症のリスクが上がります。今回は骨粗しょう症とその治療薬、そして栄養との関係のお話です。

骨組織は硬くて不変なように思われますが、実は一定のサイクルで日々古いものが壊され、新しいものに生まれ変わっています。これを骨代謝(リモデリング)と言います。

骨代謝に関わる細胞には、新しい細胞を作り出す(骨形成)「骨芽細胞」、骨の約9割を占める「骨細胞」と、古い骨を溶かして壊す(骨吸収)「破骨細胞」があります。1年で約30%の骨が新しく生まれ変わるとされています。

骨の強度を考える際に「骨量」「骨密度」「骨質」という言葉があります。「骨量」は骨全体のミネラルの量、「骨密度」は骨量を骨の体積で割ったミネラルの密度。「骨質」は骨のミネラル以外の要素を含めた骨の強度です。

骨粗しょう症の検査に「骨密度」とはよく聞かれますが、実は「骨質」が良くないと骨密度が高くても骨折しやすいという事になりかねません。どういうことでしょうか?

それは、カルシウム以外のミネラルとコラーゲンにヒントがあります。

骨を形作っている主な成分は、カルシウムとコラーゲン。確かにミネラルの中ではカルシウムとリンが最も多いのですが、カルシウムを上手く取り込んで骨にするためにはマグネシウムが不可欠ですし、その反応を助ける酵素は蛋白質でできていて、微量ミネラルの亜鉛やマグネシウムが補因子(酵素の一部)となっています。また、コラーゲンもタンパク質ですから、それらの栄養素が十分摂取され、機能して初めて骨が形成されるのです。ちなみに、リンは皮肉にも食品添加物から結構たくさん取られている方が多いため、現在欠乏することはあまりありません。

また、常時骨に一定の圧がかかることも良好な骨のリモデリングを促進するうえで非常に重要です。若い自転車競技の選手が自転車に乗る練習ばかりしていて足の骨にほとんど荷重がかからない状況が続いたら、毎日運動しているはずなのに骨粗しょう症になって骨折したというエピソードもあります。「地に足を着けて」運動することが重要という興味深いお話です。

つまり、骨量のミネラルが多くてもバランスが悪かったり、たんぱく質が不足したり、適切な運動を怠ると強い骨にはならないのです。

ところで骨量を増やす画期的な薬、ビスホスホネート製剤(BP製剤)を骨粗しょう症の治療の為に内服または注射していらっしゃる方はとても多いのですが、その作用機序は、破骨細胞の働きを抑え骨量を増やすというものです。骨量を増やすという意味では画期的なお薬です。

しかし、前述した本来人体に備わっている骨代謝が抑制され、古い骨が排除されることなく残り、骨質としては悪化してしまう可能性があるという事をご存知でしょうか?いわば、ぼろ屋の廃材を残したまま新しい材料で修繕し、材料がたくさんあるから丈夫と言っているようなものと言えば、叱られるかもしれませんが、私はそう思っています。

現に非常にまれではありますが、BP製剤内服中に抜歯などの処置をして、顎骨壊死という悲惨な副作用が起こる例が報告されているのです。非常にまれだから骨折するよりましと思われるかもしれませんが、ひとたび顎骨壊死になると有効な治療法はなく、内服を中止しても進行する事すらあります。また、長期投与で骨折のリスクが増加するという報告もあるんですよ。

私の経験ですが、永年BP製剤を飲んでいて骨密度が横ばいだった元気な90歳の患者さんの血清亜鉛濃度が非常に低値だったため、タンパク質をしっかり摂る食事指導と共に亜鉛のサプリメントを投与したところ、劇的に骨密度が上昇したという例もあります。

もちろん、BP製剤を使用することが医療界のガイドラインでは推奨されていますから、100%否定するわけにいきませんが、せめて食事、運動で骨を強くする努力をしてから、服薬を検討してはいかがでしょうか?

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