アトピー性皮膚炎の治療の歴史

なぜアトピー性皮膚炎を最初に語るのか?それは、アトピーの歴史と治療の現状を語る事が、大げさに言えば日本の皮膚科医療の現状を考える上で重要で、私の人生を変えた大きな原動力になったきっかけの一つでもあるからです。「アトピー性皮膚炎を根本的に体質から治したい。」これが、私が病院勤務医をやめてブログを書き始めた大きな原動力の一つです。

「アトピー性皮膚炎は体質だから治らない。一生薬がやめられない。」そう思っておられる患者さんとともに、大げさですが、アトピーで困らない世界を作りたいと思っています。

「アトピー性皮膚炎」は「奇妙な病気」と言う意味のギリシャ語「アトピア」を語源に命名された原因不明とされる疾患です。1960年に始めて紹介された当時の日本ではあまり見られませんでしたが、1970年代まで小児を中心に増加し、1980年後半以降からは成人型が増加し続け、社会的にも問題になっています。1990年代、アトピーの原因はアレルギーであるという考えのもと、小児科領域では食物アレルギー原因説から除去食療法がでてきましたが、極端な除去食が低栄養、成長障害を招き小児科学会で問題視されるようになります。一方皮膚科医の中ではアトピーは食物アレルギーの関与よりも家ダニのアレルギーが原因との考えが、またその後はストレスとの関連が注目されるようになります。

ステロイドバッシングの時代  1953年にステロイド軟膏が作られ、アトピー治療の主体となりましたが、1990年代に、当時の人気番組が「ステロイドは危険」と強調した報道をしたのをきっかけに、マスコミによる“ステロイドバッシング”が続き、それに伴い“脱ステロイド療法”が話題を集め、根拠のない民間療法などが氾濫しました。こういった歴史が、現代においても「ステロイドは怖い、使いたくない」といったイメージを残しています。

皮膚機能異常という考え方 フィラグリン、セラミドといった天然の保湿因子が発見され、アトピー性皮膚炎の一因は皮膚のバリア機能障害という考えが定着しました。

アトピー性皮膚炎のステロイド治療 日本皮膚科学会のガイドラインでは、「ステロイド外用」は「悪化因子の除去」、「スキンケア」と並んで今もアトピー性皮膚炎治療の3本柱と位置付けています。

ストレスの関与  ストレスがアトピーの病態を悪化させる大きな要因と言われています。ストレスにアプローチする皮膚心身医学が注目されます。

紫外線療法 有益な波長を選択的に照射することの出来るナローバンドUVB療法はアトピー性皮膚炎に承認されました。3本柱で改善しない人に併用することである程度の効果が得られます。

タクロリムス軟膏登場(2000年) 免疫抑制剤の軟膏です。ステロイドほどの切れ味はないながら、特に顔面や頚部の難治な皮膚炎に対しステロイドとは違った作用で比較的長期に使用できる外用剤として有用です。ただし、炎症の急性期に使用すると刺激感が強いことが難点で、ステロイドで短期集中的に消炎を図り、その後比較的長期的に使用することが勧められます。

シクロスポリン内服の承認(2008年) 免疫抑制剤内服薬です。ステロイド外用に抵抗するアトピー性皮膚炎に有効な例が多いですが、長期的には必要な免疫も低下させてしまう事、腎機能障害などが問題になり、むやみに長期使用することは戒められます。

デュピルマブ登場(2018年) 分子生物学の進歩に伴い、かゆみと炎症、バリア機能のそれぞれ関与するインターロイキン、IL4,13をブロックする薬剤。効果は劇的で即効性がありますが、重篤な副作用はほぼないようです。アトピー治療の常識を覆したともいえます。

※インターロイキン:リンパ球から分泌され、細胞間コミュニケーションの機能を果たすサイトカインという物質の一種

アトピー性皮膚炎におけるサイトカインとその働き

非常に高価な薬剤の為、適切なステロイドの外用をしていてもコントロール不良な場合や、副作用でこれ以上ステロイド外用剤が使えない場合に限るという条件を満たす必要があります。ただし根本治療ではない為、治療を中止すれば多くが再発すると言われています。

新しい外用剤デルゴシチニブ(コレクチム)軟膏(2020年)デュピルマブが抑えるIL-4/IL-13の受容体に結合するチロシンキナーゼのヤヌスキナーゼ(一般的にはJAK)の阻害剤です。コレクチムはすべてのJAKを抑制します。タクロリムス軟膏に比べ刺激感が少なく使用しやすいと言われています。

近々新しい外用剤の発売も予定されています。

副作用のある薬剤、高額な薬剤を使用しない根治的な治療法はないのでしょうか?  このように、アトピー性皮膚炎にはこの20~30年の間に次々多新しい治療法が開発されてきました。しかし、裏を返すと、アトピー性皮膚炎は増加し続け、従来の治療法では十分に改善できない患者さんが一定数以上おられるという事でもあります。そして、どんな新しい画期的な治療法をもってしても、やはり治療を中止すると多くは再発することが知られており、根本的解決には至っておりません。現時点では唯一、ストレスや心理的要因へのアプローチが成功すれば、根治的解決と言えるかもしれません。

アトピー治療の歴史を患者さんとともに歩み、悩み、さまよった末、それ(根治的な治療法)が、皮肉にも生活習慣、食習慣、思考習慣を変える事、という、現在ほど西洋医学の進んでいなかった時代に盛んに言われていたことであることに気づかされる「分子栄養学」との出会いで、私の考え方は大きく変わりました。

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