健康を作る油病気を作る油

このタイトルで、去る7/15にクリニックでセミナーを開催しました。

今年6月にクリニックをオープンして開始したばかりの月1回のセミナーの第2弾。セミナーで栄養療法の事を広く皆さんに知っていただくのが、クリニックオープン前からの一つの目標だったのです。宣伝も不十分、日程もクリニックの休診時間を利用しての木曜日午後なので、今回まで参加費がモニター価格の1000円と格安ながら、参加人数はたった5名ですが、一人でも参加して下さる方がいらっしゃったら頑張って続けるつもりです。

余談ですが、スライドつくりにかけた時間は10時間以上、ポスターやレジュメ作成、その他もろもろの経費などを考えると、果たして私の時給は300円もで出ただろうか?もちろん、セミナーで喋る内容を習得するのにかけた莫大な費用は抜いての話です。というわけで、次回からは2000円の参加費とさせていただきます。中身は5000円払っても損はないと言っていただけるくらいのものを目指します!

これは、私のクリニックの1時間の自費カウンセリングがうけられないとおっしゃる患者さんや、患者さん予備軍の方に、複数でお話を聞いていただくことによってお得に知識を得て頂くのが目的。

とまあ、つまらぬ前置きはさておき、先日のセミナーの内容。

油の良しあしを理解するために必要な最低限の化学的知識として脂質の構造、脂質の種類、その働き、脂肪の消化吸収、有害な脂質、市販の油の価格と製法の違い、厚生労働省の対応の諸外国との違い、腸内細菌との関係、などについて1時間お話しました。

ざっくりと結論を言えば、

①脂肪酸は炭素と水素と酸素でできていて、炭素の長さが様々で、短いものは短鎖脂肪酸(常温で液体、水に溶ける)、中くらいは中鎖脂肪酸(MCT:常温で液体)、長いものは長鎖脂肪酸(常温で固体)。エネルギー源となる他、細胞膜の成分として非常に重要な働きをしている。

②飽和脂肪酸(主に動物性の油とココナッツオイル)は巷で言われるほど悪くないエネルギー摂取源であり、そのひとつである前述したMCTオイルでのエネルギー摂取には様々なメリットがある(前述のとおり)。

②不飽和脂肪酸には炭素が水素と手をつないでいない二重結合があり、その位置と数によって性質が異なる。アミノ基(Ch3)の末端から数えて最初の二重結合が9番目、6番目、3番目の物をそれぞれオメガ9、オメガ6,オメガ3と称し、その順に二重結合が増え、二重結合が多いほど紫外線、熱などでより酸化しやすい。

③加熱に使用するならオメガ9の多いオリーブオイル、こめ油などがお勧め。

④脂質の吸収には脂質を包み込んで血液の溶けやすくする「胆汁酸」、エネルギー産生工場のミトコンドリアに運び込むシャトルバスの働きをする「カルニチン」が必要

⑤オメガ6は炎症や血液の凝固を促進し、オメガ3はその反対の働きをする。いずれも生体に必要不可欠な脂肪酸だが、現在の食事では圧倒的にオメガ6の摂りすぎであり、それが様々な病気の原因になっている。オメガ6を極力控え、オメガ3を積極的に「生で」摂ることが望ましい。

⑥油の生成には圧搾法(原材料をつぶして圧のみで絞り出す昔ながらの製法コールドプレス)、溶剤抽出法(ヘキサンという有害な溶剤で原材料から油を溶かし出し、加熱することによってヘキサンを除去する製法)が。溶剤抽出法は圧搾法の約50分の1の時間で生成することができ、安価で大量生産に向くが、加熱により抗酸化物質などの有用成分がなくなり、有害な物質ができてしまう可能性が高くなる。また油の原料や家畜の飼料ならば大豆やトウモロコシの産地や遺伝子組み換えなどの表記義務がないので、安価なオメガ6オイルのほとんどが遺伝子組み換えの輸入穀物が使用されている。

⑦オメガ6の安価な油をさらに加工して固まりやすくしたものがトランス脂肪酸。これも以前記載したように、諸外国では表示義務から禁止まで様々な対策がとられているが、日本には表示義務すらもなく野放し。

⑧オリーブオイルは体にいいと言われるが、普通のスーパーで売られているオリーブオイルの表示も日本では管理がずさんで、例えば1敵でもエクストラバージンオイル(圧搾法の一番搾り)が入っていれば「エクストラバージンオリーブオイル」と名乗れる。そもそもプラスチック容器や透明の瓶に入ったものは信用できない。

⑨腸内細菌がオメガ6のオイルを体に有用な脂質に変換しているという報告がある! 例えばこんな論文が⇒⇒⇒

大衆情報に惑わされず正しい知識を持って食材を選ぶことが必要で、他の事は少し節約しても、かけがえのない健康のために、本物の食材の為にお金を使う事を惜しまないって、大事です。

そして、それは、良心的に本物を作ってくれている生産者を応援する事にもなるんですから・・

栄養療法の保険診療での試み

医学部教育 患者さんに「食べ物は関係ありますか?」と尋ねられたとき、特に食習慣との関連が言われれていない疾患では、医師は「何でも食べてください。」とか、よくて「バランスよく食べましょう」と答えるのが極めて普通で「お菓子や甘いものは控えめに」と言えば上等です。皮膚科では、近頃は患者さん側からそう聞かれる頻度も減っているように思います。病気は薬で治すものという認識が強くなっているのです。最近やっと特に食習慣と関わりの深い生活習慣病に対する管理栄養士の栄養指導に保険点数が付くようになったところです。

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日本の医学部では「栄養」やそれと関連して疾患を考える授業などほんのちょっぴりです。「栄養」と言えば極端な欠乏症、「食物」と言えばアレルギーを起こす食べ物を除去する事しか教わらないのです。通常の医療が「食」を軽視して薬剤に頼るのも無理からぬことでしょう。余談ですが、日本では「医療」の下に「栄養」があるとイメージされ、栄養士さんの地位は医師の下のように思われているのが現状ですが、アメリカでは栄養士さんは医師と同等の地位と権利を持っていると言っても過言ではないようですよ。

食事調査 急性期病院の皮膚科には、「急性疾患」はもちろんですが、アトピー性皮膚炎に限らず、難治な慢性の皮膚疾患患者さんが次々と紹介されてきます。栄養療法を学びはじめた私は、慢性疾患の多くは免疫異常と関連があり、患者さんのほとんどが栄養療法の適応になると感じ始めました。そこで、治療に少しでも躓いているほぼすべての患者さんに日ごろの食事内容を尋ねるようになりました。わかったことは、皮膚疾患の治療に難渋する人の多くが、糖質過多、蛋白・野菜不足の食習慣であるという事でした。そこでほとんどの患者さんに、糖質を控えてタンパク質と野菜を積極的に食べる事、という指導を始めました。すると原因不明の慢性疾患が改善することが少なくはないのです。

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皮膚科の標準治療の中に分子栄養学を・・・

人体の不思議 人間いや動物の体は、細胞の環境を適切に整えれば病気にならずに正しく働くよう、とても精巧に出来ています。細胞の適切な環境とは、必要な栄養素の補充が十分にあり、有害な毒物(重金属やニコチン、細菌、カビ、化学物質など)が排除(解毒排出)される状態をいいます。適正な免疫機能が働いてさえいれば起こりようのない病気が近年どんどん増えているのは、体の細胞の環境が適切でないという事ではないかな?

分子栄養学は、一言でいえば、「細胞の適切な環境」を作るため食事や、急ぐ場合サプリなどで栄養を摂取し、食物を消化吸収できる消化管を保ち、毒物の解毒がスムーズになされるプロセスを分子生物学的に解明し応用する学問です。そして個々の患者さんに合わせて生活習慣の改善、栄養の摂取、デトックスなどを行っていく治療を分子栄養医学、一般に栄養療法と呼んでいます。

西洋医学と栄養療法の違い 従来の西洋医学的対症的治療は、明らかな病気(と西洋医学が認めた症状)に対して行う比較的単純で強力な治療(機能が悪くなった細胞から発生する炎症物質をブロックしたり、ガンなどを切除、細菌をやっつける薬を投与、詰まった血管を再開通させるなど)が得意で、効果がすぐに目に見えて劇的です。「比較的単純」というのは、個体差を考えず、薬や処置だけで症状を消すことができるという意味。それを可能にするため、薬や技術の進歩には著しいものがあります。しかし、残念ながら根本的には治癒しない疾患が少なくなく、治療は医師が主体、患者さんは多くの場合受け身の立場です。

また、病名がつかない、西洋医学的に説明不可能な症状に対しては、患者さんがどんなに消耗していて辛くても、病気として扱ってもらえないという側面もあります。

それに対し栄養療法は・・・

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人生の中のアトピー性皮膚炎

幼少時 アトピー患者さんの病歴は幼少時にさかのぼることが多いです。生まれつき、または生後間もなく皮膚炎が顔面や体幹に出現。多くは皮膚科でステロイド軟膏を主体とす外用治療を受け、皮疹の悪化時に部分的に外用し、かゆみをしのぎながら成長していきます。30~40年前までは小学校に上がるころまでに皮膚のバリア機能がしっかりして改善していく子がほとんどと思われていた疾患でした。

学童時から思春期・成人期 ところが、一部の子は学童期を過ぎ思春期~成人期になっても皮疹が改善せず、成人型重症アトピーに移行したり、この時期に初めて発症したりすることが増えてきました。受験のストレスや家庭環境などの影響が強く示唆されることも多いため、心身医学的な側面に注目されています。たいていの患者さんは何らかの形でステロイド軟膏を使用されていますので、ステロイド外用剤の副作用の過大な広告(ステロイドバッシング)の時代と重なり、急激な脱ステロイドを強行して著明に皮疹が悪化する症例も少なくありませんでした。

現在は日本皮膚科学会がステロイド外用剤を標準治療の主軸と位置付け、外用方法の指導の重要性を提唱するようになり、さらに新薬の開発も進み、アトピー治療はこうあるべきという方針が確立されつつあるように思えます。その経緯や現状については過去のブログに記載した通りです。

ここである患者さんのエピソードを・・・

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標準治療の限界

外用治療の限界と新薬 前回、外用療法を丁寧に指導し確実に実行すると、ほとんどのアトピー性皮膚炎症状がコントロール可能になるとお話いたしました。ところが、長年同じ病院でアトピー性皮膚炎の治療に携わっていると、いくら正しい外用を行っても一定以上は改善しない患者さんや、外用量を減らしていくことができず、そのまま続けると副作用を避けられない患者さんが少ないながらもいるのです。

また、適度な外用で上手く症状をキープしている患者さんでも、ふとした理由でちょっと外用を控えると急激に悪化、つまりは薬なしではいられない。なぜ?と壁にぶつかったころ、デュピルマブという特効薬が発売されました。今まで改善させることの困難だった重症のアトピー患者さんの多くが劇的に改善する夢のような薬です。しかも副作用は少ない。

デュピルマブは皮膚の炎症を惹起する細胞間伝達物質であるインターロイキン(4と13)という物質を抑える薬剤で、一本約7万円と、非常に高額(週2回の皮下注射)ですが、多くの症例で難しい外用方法の指導などしなくても注射した翌日には劇的に痒みがなくなり1~2週間もすると皮疹がほぼ消退するという画期的な効果です。

ステロイド外用治療を十分に行っても上手くいかない患者さんは、激しいかゆみやそれに伴う不眠、いじめ、うつ症状など、大きな苦痛を抱えています。とりあえず早く症状を改善させてあげなければ苦痛に耐えられない、あるいは社会復帰ができない事も少なくありません。そのような状況ではデュピルマブは救世主となります。デュピルマブによって身体的・精神的苦痛から解放され、世界が変わった患者様は多いと思います。時代は大きく変わりました。しかし、多くの問題があると私は考えています。

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ステロイド外用指導の実際  

①ステロイド軟膏の正しい塗り方:最大のポイントは「塗り薬の使い方」
皮膚の炎症を沈め、正常化するために最もよく使われている薬はステロイドの軟膏です。どのような薬の塗り方をしているでしょうか?ステロイドってなんかこわいと思って、ごくごく薄くつけていませんか?特にひどいところだけにモグラたたきのように塗っていませんか?かゆみが我慢できる程度になったら怖くてまたは面倒くさくてやめてしまっていませんか?

これでは、野原の大火事を消すのに、火の勢いの強いところだけに水鉄砲で水をかけてまわっているようなものです。火事は消えないばかりか広がってしまいます。完全に火が消えるまでたくさんの水をかけて初期消火を続け、残り火がないのを確認して終了すれば、大火事でも消すことができます。一旦火が消えた後は時々(週1,2回程度)水をかけて湿らせておくと、残り火が再燃しないで火のない状態をキープすることができます。

「火」を「皮膚の炎症」に置き換え、「水」を「ステロイド軟膏」に置き換えて読んでみましょう。下図①の横軸は時間経過、縦軸は皮疹の程度です。最初の1~2週間は強め大量(下図②FTUを参考に全身ならば20g)の外用、皮膚症状がゼロになったら外用量や外用範囲はあまり減らさず、外用頻度を減らして少しずつ間隔をあけます。できれば2,3か月以内に週2回程度までの外用に持ち込めば、たとえ長期に全身に比較的大量に外用を行っても副作用の心配はあまりないことが分かっています。むしろ安心してしっかり外用を実行できた患者さんほど使用量がどんどん減っていくことが多いものです。

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私のアトピー診療歴

混迷 私が皮膚科医として駆け出しのころ、ちょうどステロイドバッシングの渦中、多くの皮膚科医も迷いに迷っていた時代でした。今から思えば迷わされた患者さんが根拠のない民間療法に走るのも無理からぬ状況でした。

標準治療の確立 混迷の時代を経てアトピーのガイドラインが作成され、ステロイド外用を必要十分にすることが、標準治療の柱と位置付けられたのは、「アトピー治療の現状」に述べた通りです。その枠組みの中では、ステロイド外用剤を、正しく安全に有効に使用することが処方医の責任であり、腕の見せ所といえます。十分な外用指導をすればかなり重症のアトピー性皮膚炎の患者さんでも多くは著明に改善し、少しのステロイドで良好な状態をキープすることができるようになります。

外用指導の難しさ 外用指導にはとても時間がかかり、十分な指導をすると、その後の患者さんの待ち時間が増えてお叱りを受けることは1度や2度ではありません。そして、現実には行き当たりばったりでいい加減な塗り方や不十分な使用量で重症化している患者さんが巷に溢れているのです。しかし私は、正しい外用をきちんと広める事こそ、皮膚科医の務めと考え、丁寧な外用指導に力を入れてきました。十分に時間をかけて具体的に詳細に、パンフレットなどを用意して指導します。多くは思い通りに改善し、とても喜んでいただけました。

私が、勤務医時代に外用指導に用いていた指導箋です。

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アトピー性皮膚炎の治療の歴史

なぜアトピー性皮膚炎を最初に語るのか?それは、アトピーの歴史と治療の現状を語る事が、大げさに言えば日本の皮膚科医療の現状を考える上で重要で、私の人生を変えた大きな原動力になったきっかけの一つでもあるからです。「アトピー性皮膚炎を根本的に体質から治したい。」これが、私が病院勤務医をやめてブログを書き始めた大きな原動力の一つです。

「アトピー性皮膚炎は体質だから治らない。一生薬がやめられない。」そう思っておられる患者さんとともに、大げさですが、アトピーで困らない世界を作りたいと思っています。

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