「低血糖症」って「糖尿病」の逆ではないんです

「低血糖症」という言葉をご存知ですか?文字通り低血糖が起こる病気なんですが、高血糖が問題とされる糖尿病に比べ認知度は格段に低い病気です。西洋医学の世界では全く知られていないと言っても過言ではないかもしれません。

でも、低血糖はイライラやうつ、アレルギー、不眠症など様々な病気を引き起こす引き金になりうる重大な症状なんですよ。

図1

では、低血糖症、どんな病気でしょうか。高血糖の逆だから、糖尿病の反対かと思いきや、そうでもなくて、低血糖の症状が前面に出る耐糖能異常です。なんのこっちゃ。

耐糖能とは、血糖を適切に調節する体の機能の事です。正常な耐糖能の方は図1のように食事を摂っても摂らなくても血糖値が70~140㎎/dlくらいに保たれるようホルモンや酵素が働く仕組みになっています。

図2

ところが、吸収の早い単純糖質(砂糖など)を多く含むドリンクをたくさん一気飲みするなどすると、血糖を下げるインスリンの働きが間に合わず、食後高血糖という状態になります。(図2)

さらにインスリンの初動(血糖に対する素早い反応)が悪い人だと、出遅れた分だけさらに血糖が上がり、ますます多くのインスリンを出す羽目になり、今度はすぐには止まれないインスリンが効きすぎて反応性低血糖が起こります。(図3)

図3

ところで、私たちの体の遺伝子は、縄文時代の頃とほとんど変わっていません。お砂糖を摂りすぎて高血糖で困るなんてことはプログラミングされていませんし、ましてや、そのためにインスリンを使いすぎて低血糖を招いてしまうなんて、想定外です。体にとっては低血糖=飢餓=命の危機なんです。ですから、体はあの手この手で何とかして早く血糖を上げようとします。何をするか・・・

①一つは、甘いモノ。砂糖を渇望させて、手っ取り早く血糖を上げようとします。悪循環の始まりですね。ちなみに図3のように、血糖が激しく変動することを血糖の乱高下と言います。

②二つ目はカフェイン。低血糖は激しい眠気を誘い、カフェインを渇望させます。カフェインは興奮系神経伝達物質ノルアドレナリンやアドレナリンの分泌を強く促します。アドレナリン、ノルアドレナリンは血糖を上げる作用を持っているのです。

③三つめは②とも重なりますが、神経伝達物質やホルモンの働き。血糖を下げるホルモンはインスリンのみですが、血糖を上げるのにはアドレナリン、ノルアドレナリンの他、成長ホルモンやコルチゾール(ステロイドホルモンの代表)、甲状腺ホルモンなどのホルモンが待機しています。生命の維持にとって血糖を上げる方がよほど大事という事でもあるんですよね。でも、これらのホルモン、血糖を上げるお仕事は本業ではないんです。これらのホルモンが血糖を上げるためにたびたび動員されるとどうなるか。

例えば、アドレナリンは「興奮」に働きますから、無駄に働くとイライラして切れやすくなったり、考えすぎて不安になったりします。コルチゾールがこんなところで浪費されると、本来の「ストレスに対応する」「炎症を鎮める」お仕事が手薄になり、うつ病やアレルギーが起こりやすくなります。また、コルチゾールは夜間の血糖を維持する働きもありますから、昼間の「浪費」によってやがて副腎の働きが悪くなり、本業の夜間血糖の維持という仕事がままならなくなって夜間低血糖が起こりやすくなります。夜間低血糖が起これば、コルチゾールのバックアップとしてやはりアドレナリンが出動し、中途覚醒や悪夢をみるなど、睡眠の質が悪くなります。

つまり、昼間の低血糖はイライラやうつ、アレルギー、不眠症など様々な病気を引き起こす引き金になりうる重大な症状なんです。

そして、このような事を繰り返すうち、単身で頑張っているインスリンを出す膵臓がヘタってしまい、やがて摂取した糖に見合うインスリンが出せなくなって、「糖尿病」がおこるのです。

現在糖尿病の診断基準に使われている「空腹時血糖」「ヘモグロビンA1c(以後 HbA1c )」はこんなに激しく乱高下している血糖を検知してはくれません。なぜならインスリンの分泌機能が破綻をきたすまでは糖摂取後上がりすぎた血糖の後には低血糖となり、一か月の平均値であるHbA1cはまっとうな数値になってしまいますから・・・健康診断で血糖はOKと言われていても、低血糖症が隠れているかもしれませんし、糖尿病がすぐそこまで来ている可能性だってあるんです。

コルチゾールは朝にたくさん出て、午後には低下するホルモンです。午後に激しい睡魔に襲われる方、必ずコーヒーを飲んだりチョコレートを食べたりしないと仕事ができない方、一度低血糖症を疑ってみてはいかがでしょう?場合によっては一度栄養療法のクリニックで相談された方が良いかも・・・

次回は、低血糖症が疑われる方のための対策についてお伝えします。

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