標準治療の限界

外用治療の限界と新薬 前回、外用療法を丁寧に指導し確実に実行すると、ほとんどのアトピー性皮膚炎症状がコントロール可能になるとお話いたしました。ところが、長年同じ病院でアトピー性皮膚炎の治療に携わっていると、いくら正しい外用を行っても一定以上は改善しない患者さんや、外用量を減らしていくことができず、そのまま続けると副作用を避けられない患者さんがいるのです。

また、適度な外用で上手く症状をキープしている患者さんでも、ふとした理由でちょっと外用を控えると急激に悪化、つまりは薬なしではいられない。なぜ?と壁にぶつかったころ、デュピルマブという特効薬が発売されたのです。今まで改善させることの困難だった重症のアトピー患者さんの多くが劇的に改善する夢のような薬です。しかも副作用は少ない。

デュピルマブは皮膚の炎症を惹起する細胞間伝達物質であるインターロイキン(4と13)という物質を抑える薬剤で、一本約7万円と、非常に高額(週2回の皮下注射)ですが、多くの症例で難しい外用方法の指導などしなくても注射した翌日には劇的に痒みがなくなり1週間もすると皮疹がほぼ消退するという画期的な効果です。

ステロイド外用治療を十分に行っても上手くいかない患者さんは、激しいかゆみやそれに伴う不眠、いじめ、うつ症状など、大きな苦痛を抱えています。とりあえず早く症状を改善させてあげなければ苦痛に耐えられない、あるいは社会復帰ができない事も少なくありません。そのような状況ではデュピルマブは救世主となります。デュピルマブによって身体的・精神的苦痛から解放され、世界が変わった患者様は多いと思います。時代は大きく変わりました。しかし、多くの問題があると私は考えています。

新薬の限界と疑問 まず、比較的安いステロイド外用治療などを十分に行っても改善しない人は、何らかの悪化要因を必ず持っています。デュピルマブはその悪化要因をもしのいで効果を出してしまうのです。そして、この注射薬は非常に高価で毎月何万円の治療費を支払わなければなりません。患者さんも大変ですし、ただでさえ高騰し続ける日本の医療費の上昇に拍車をかけるではありませんか?しかも、デュピルマブで抑えた症状の多くは注射を中止すると再発します。これって、根本的に治っているわけではないってことですよね?

免疫のかく乱? そして、これはまだ公式には偉い先生方は言われていない事ですが、細胞から炎症惹起物質である「インターロイキン」を出す、すなわち機能障害を来した細胞の状態をそのままにして炎症惹起物質だけをブロックすると炎症反応の上流に何らかの影響を与えて、別ルートの炎症がかえって強くなるのではないかと私は考えています。川の水の量が多すぎるからと言って下流で無理やりせき止めると、上流の支流で洪水が起こるようなものです。

無理やり的な例えと思われるかもしれませんが、デュピルマブ以外のすでに使用されている類似薬剤(生物学的製剤)で、パラドキシカルリアクション(逆説的反応)と呼ばれる副作用が以前から問題になっているのです。これは、下流でインターロイキンをブロックすると原疾患に類似する疾患(使用した薬剤が効きそうな疾患)の発症をかえって惹起するという副作用です。アトピー性皮膚炎においてそのような現象が起こるとはまだ言われてはいません。でも、少なくとも皮膚炎だけを制御しても、機能障害に陥った細胞がそのままなのですから、他の免疫異常で別の疾患が起こる可能性は十分あると思いませんか?

皮膚と腸内環境 では、難治なアトピー性皮膚炎はどのように治療すればいいのでしょうか?私は皮膚症状を消すだけで満足してはいけないと思っています。何故ならば、ひどい皮膚炎が起こるのは、「何らかの原因」で免疫が暴走している証拠だからです。「何らかの原因」は何か?その一つが腸内環境(≒腸内細菌バランス)の悪化であるという事が認識されつつあります。近年腸内細菌の詳細な分析が進み、腸内細菌が免疫機能の大部分を担っていることが分かってきました。アレルギーは免疫の異常、また皮膚は消化管といわば地続きの臓器であり、アトピー性皮膚炎患者さんの多くは腸内環境が悪いと言われています。乳酸菌の投与がアトピー性皮膚炎の症状を改善させたという趣旨の論文も発表されています。

腸に何らかの手を打たなければ根本的解決はないのではないでしょうか?さらに言えば、腸内環境が悪ければ将来的にもっと深刻な免疫異常(自己免疫疾患やガンなど)を発症するリスクが有るかもしれません。また、アトピーとストレスの関係は以前より言われており、重症アトピー性皮膚炎にうつ病を合併する例は珍しくありませんが、うつ病において低下することが多いとされる幸せホルモン「セロトニン」は腸で作られますし、脳内神経伝達物質の材料となるアミノ酸やビタミン・ミネラルは腸から吸収され、ビタミンBは腸で作られるのです。

標準治療の先に 症例によっては救世主であるデュピルマブを使用せざるを得ない事はあります。しかし、ステロイド外用治療と同様、デュピルマブのエンドポイント(いつ、どうすれば中止することができるか)は一般的には未だ定まっていません。(ただ、炎症の暴走を止めると自然治癒する例はあります。)私はステロイド外用、デュピルマブは急場をしのいで早期の苦痛除去+社会復帰を促す手段と認識し、それと並行して腸内環境改善に着目した食事や生活習慣の改善を主軸とするアプローチをすることで、より高い確率で投薬治療の軽減・中止がはかれるのではないかと考え実践を試みています。

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