亜鉛④ 現代人はなぜ亜鉛が欠乏しやすいのか?

まず食材の栄養価の問題。現代は、農薬や化学肥料、環境汚染の影響で作物自体の栄養価が下がっています。「新型栄養失調」の回で述べましたが、加工食品やカット野菜などは加工の段階で栄養素が失われています。

次に、吸収の問題。日本人には胃酸欠乏の人が多いと言われています。ましてや、近年はちょっと胃の具合が悪いと、胃酸抑制薬が安易に処方され、延々と飲み続けている例がよく見られます。摂取したミネラルの吸収には、胃酸でイオン化されるという過程が不可欠ですから、胃酸が少ないと摂取したのに吸収されないという事態も起こり得るんです。また、食品添加物のリン酸塩は、それ自体に毒性はありませんが、ミネラルをくっつけて便に排泄してしまいます。もちろん腸内環境が悪いと吸収しにくくなります。

そして、亜鉛消費量の増大問題。せっかく吸収し取り込んだ亜鉛も、食品添加物、環境汚染物質や薬剤などの「解毒」に使われ、ストレス、炎症なども亜鉛を浪費する原因になります。

と、このように現代社会に生きる私たちはよほど気をつけて亜鉛を摂取していても、亜鉛欠乏症になりやすいようにできているのです。

では、どうしたら良いのでしょう?

上記の逆、つまり、

・できる限り無農薬の作物を摂取し、極力加工食品を使用せずに食事は手作りしましょう。

・無駄な胃酸抑制薬を漫然と内服するのは厳禁。食事の際、胃酸の代わりにpHを下げてくれるお酢やかんきつ類(レモン、ゆずなど)を一緒に摂りましょう。

・歯周炎や上咽頭炎、副鼻腔炎等、慢性炎症があれば治療しておきましう。

・腸内環境を整えましょう。

・心穏やかにストレスのない生活を送りましょう。

いかかですか?なかなか難しいですよね。でも、知っていると知らないでは、全く違うと思います。今日から、心がけてみませんか?

亜鉛③ 多く必要な時と部位は?

亜鉛は、数えきれないほど多くの働きがありますが、亜鉛が多く必要な身体の状態や部位を知る上で、まずは「細胞分裂」が一つの重要なキーワードになります。遺伝子DNAの合成、複製に不可欠な栄養素だからです。

□細胞分裂が盛んな時(成長期、妊娠、授乳、けがの治療時、病気の回復時、炎症時)

□細胞分裂が盛んな場所(毛髪、味蕾、皮膚、消化管、生殖器)

成長期、妊娠時、手術やケガや病気の時:新たな細胞を作り出すため、または組織の修復のため細胞分裂が盛ん ➡亜鉛の要求度が上がる つまり相対的に亜鉛が欠乏しやすいはずです。

一方、亜鉛は、神経伝達物質という、脳の働きを決める重要な物質を作る際に必要なため、脳にも多いのですが、欠乏すると攻撃性増加、認知症、うつ病の原因になることもあります。

つまりつまり、亜鉛が多く必要な時期、成長期に反抗的になったり、妊婦さんがうつになったりイライラしやすくなるのは、亜鉛欠乏の影響があるんですね。

その他、膵臓ではインスリンを安定化する重要な役割を担い、肝臓では解毒の仕事、さらには免疫細胞を活性化する役割もあります。亜鉛欠乏は、糖尿病、アレルギーなどのリスクも高めるという事です。

診断は一般的には血液検査です。しかし、体内の全亜鉛のたった2%しか血清中に存在しないうえ、日内変動があり、夕方の血清亜鉛値は朝の約8割。それを知った上で検査データを解釈する必要があります。通常血清亜鉛値が基準範囲内(80~120μg/dl)であっても、組織内亜鉛は欠乏していたり、酸化ストレスで起こる溶血(赤血球が壊れること)によって、亜鉛濃度の濃い赤血球から血清中に亜鉛が溶出していたりすることがあります。一方組織内亜鉛が多いのに血清亜鉛値が少なく出ることは比較的まれです。

こんなに大事な亜鉛がなぜ欠乏しやすいのか。次の課題です。