ステロイド外用指導の実際  

①ステロイド軟膏の正しい塗り方:最大のポイントは「塗り薬の使い方」
皮膚の炎症を沈め、正常化するために最もよく使われている薬はステロイドの軟膏です。どのような薬の塗り方をしているでしょうか?ステロイドってなんかこわいと思って、ごくごく薄くつけていませんか?特にひどいところだけにモグラたたきのように塗っていませんか?かゆみが我慢できる程度になったら怖くてまたは面倒くさくてやめてしまっていませんか?

これでは、野原の大火事を消すのに、火の勢いの強いところだけに水鉄砲で水をかけてまわっているようなものです。火事は消えないばかりか広がってしまいます。完全に火が消えるまでたくさんの水をかけて初期消火を続け、残り火がないのを確認して終了すれば、大火事でも消すことができます。一旦火が消えた後は時々(週1,2回程度)水をかけて湿らせておくと、残り火が再燃しないで火のない状態をキープすることができます。

「火」を「皮膚の炎症」に置き換え、「水」を「ステロイド軟膏」に置き換えて読んでみましょう。下図①の横軸は時間経過、縦軸は皮疹の程度です。最初の1~2週間は強め大量(下図②FTUを参考に全身ならば20g)の外用、皮膚症状がゼロになったら外用量や外用範囲はあまり減らさず、外用頻度を減らして少しずつ間隔をあけます。できれば2,3か月以内に週2回程度までの外用に持ち込めば、たとえ長期に全身に比較的大量に外用を行っても副作用の心配はあまりないことが分かっています。むしろ安心してしっかり外用を実行できた患者さんほど使用量がどんどん減っていくことが多いものです。

図①ステロイド外用プラン

図②ステロイド外用量のめやすfinger tip unit(FTU)

治療に成功する最大の秘訣は、ステロイド軟こうを塗る心構えにあります。繰り返しますが、“できるだけ早く症状をゼロにする、その後は、ゼロをキープしながらゆっくり減らす” が基本です。ステロイド軟膏をこわいと思っていると、どうしても塗り方が控えめになってしまいます。皮肉なことに、その結果、どんどん炎症が拡大して、かえってたくさんの薬を塗ることになってしまうのです。
 ステロイド軟膏は、皮膚局所だけに良く効いて、全身の副作用があまりありませんので、上手に使えばとても有効で安全な薬です。その効果は、軟膏をぬる患者さん自身の理解度で大きく差が出ます。

皮膚症状がゼロにならないとき、又は再発してきたとき

・残った病変をさがせ:かゆいところ、ざらざらしているところ、ほんのり紅いところ

・塗り方を再チェック:薄すぎないか、ムラがないか、使用した外用剤の量は適切か?残っているところはしっかりぬる!

・生活習慣を見直す: 睡眠、食生活、仕事、保湿ケア

・悪化因子を見直す: アレルギー、ストレス、体内の炎症

患者さん側の認識の意外な盲点:長年皮膚炎と同居してきた結果・・・

・皮膚炎が軽度なら「普通(=正常)」と認識し、治療対象と考えない習慣・感覚

・「自分の皮膚はこの程度」と受け入れてしまっている

・幼い頃から皮膚炎に慣れすぎていて「正常な皮膚」を知らない

・よもや薬の「塗り方」が症状を大きく 左右するとは思っていない

・アトピーは治らないと思っている

外用方法を正しく実行すればたいていのアトピー性皮膚炎の症状を制御し、副作用を起こさない程度にステロイドを使用しながらコントロールできるはずです。ただし、それを実現するには処方する医師の十分な知識と丁寧な外用指導、患者の実行力が必要です。実際には、時間と手間がかかるため十分な外用指導がなされていないことも少なくなく、皮疹の面積に対して十分量の外用剤が処方されていないこともよくあります。また、十分に説明されて十分な処方を受けても、様々な理由で正しい外用を実行しない患者様がいらっしゃることも事実です。その結果、「アトピー性皮膚炎は治らない。ステロイドは怖い。」というイメージがますます定着し、皮疹のコントロール不良な患者さんが後を絶たないのです。

コントロール不良と判断し、次のステージ「デュピルマブ」という高額な生物学的製剤の使用を検討する前に今一度外用方法を見直す必要があるかもしれませんよ。

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